Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “春が来るまえだからね”



夏の前には青嵐、冬の入り口には木枯らしが吹くように、
春が来る前にも結構な荒れようとなるのが通例で。
豪雪地帯では雪おさめの雷というのが轟きもするそうな。

 『それってあれだろ?
  北の大陸から降りて来てた
  とんでもなく冷たい気団が居座ってると、
  春めきの暖かい気団が北上して来んのとぶつかり合うんで、
  強い風が吹いたり、豪雨が降ったり。
  はたまたそういうのの直後にまた吹雪いたり。』

落ち着かねぇ空模様になるだけじゃあない、
風の温みも寒暖が乱高下して、
ああもう春なんだねぇって実感するほど暖かくなったかと思や、
物凄んごい冷え込んだころを彷彿とさせるほどの極寒へ逆戻りもする。
下手に暖かい想いをさせられた後だから尚のこと、
この冬で一番寒いんじゃなかろうかって思うほどの寒さが戻って来て、
結果、コートやマフラーがいつまでも仕舞えない、
そんな感覚の根っこが刷り込まれちまうんだよなと。

 “一丁前だよな、相変わらずよ。”

ともすれば、大学生の自分よりも博識なのは、
どうあがいたところで否定出来ないほど今更な話だから まま認めるがと。
洗顔のついで、お髭もあたったお顔を洗面台の鏡で軽くチェックして、
顔と、それから、先が少々濡れてしまった黒髪をタオルでざっと拭いつつ。
頂上がアーチをかたどり、下縁は腰掛けられるような高さにとデザインされた、
ちょいとおしゃれな窓のあるリビングスペースへと戻れば。
その下縁に腰掛けての、
お膝へさっきまでじゃれていた“お友達”を抱えたまんま、
くうすうとうたた寝している坊やが視野に収まって。

 『ルイっ朝だぞっ、どっか連れてけっ!』
 『お前なぁ〜〜〜。』

まだ大学に在学中なれど、
そろそろその後の仕事の目処も考えにゃあならぬ。
卒業後はそのまま政治畑に進んで、
都議である父上の補佐にと努めている兄上の、
これまた補佐としてのあれこれを、任される日も程近く。
若さとまだ今のところは無名なのとを生かしての、
フットワークも軽快に、
先乗りや現地のリサーチやをこなさにゃならぬその折の、
足場に使いなさいという部屋を持たされた…のではあるけれど。

 『何でお前、ここの鍵を持ってんだ。』

それも、マンション正面のオートロックのとフロアのと両方、と。
訊いてた途中から、脳裏にぽわんと浮かんだは、
父にとっての頼もしき伴侶。
出自は華族でぴっかぴかのお嬢様だったはずが、
政治家の妻になって ン十年、
今や葉柱都議の頼れる懐刀でもある、
決断力&行動力抜群のお母様のお顔に他ならず。

 『おう、ルイんチのおばちゃんに貰ったぞvv』

ついでだから、キングのお散歩がてらに乗り込んで、
電話に出ない馬鹿息子を叩き起こして来てちょうだいと頼まれた。
このマンションまでは、蛇井さんに車で送ってもらったんだと。
一緒においでのシェルティくんと
一丸となってのタックルしかけてくれた
腕白さんがつらつらと語るまでもなく。
次男坊様にも内容の予測は立ってたご様子。

 “お袋め…。”

リサーチだの先乗りだのという、
機転や臨機応変が要りようなことへ向いてないのは百も承知。
そんな自分よりも先に、とうに見抜いておられた母上は、
その彗眼でもって、サポート役としてこれ以上頼もしい存在はないと、
こちらの坊やへも早くから目をつけていたらしく。
そしてそして、ここがもっと恐ろしいのが、

  こちらの坊ちゃんもまた、
  まだ小学生だってのに、
  大学卒業後のルイさんの補佐をしっかと務めおおすこと、
  自覚しておいでなのがありありしており。

 “……ま、それは良いんだけどよ。”

どんだけ張り切って襲撃作戦を練って来たやら。
キッチンのテーブルには
テイクアウトのサンドイッチやチキンに、飲み物のカップが並べられ。
同行して来たキングちゃんのドライフードも、
専用のトレイに入れてのセッティングはオッケー。

 “おお。一応は梱包のゴミも束ねてくれたんだ。”

昨日は引っ越しで遅くまで片付けに追われており、
それでと起きられなかったお兄さんが沈んでたベッドへ、
そぉれっと容赦のない特攻をかけてから。
さあ起きろ、とっととシャワーを浴びて来やがれと追い立てたその隙に、
朝食の支度をし、片付けの残りを手際よくやっつけてくれたようで。
束ねられた段ボール箱には、わんこの足跡もついていたので、
ビニール紐を緩めぬよう、
連れのシェルティちゃんに“乗っかれ”と上手に指示したらしいのも伺えて。
短い間にあれもこれもやっつけて驚かしてやろうとした奮闘が、でも、
幼い坊やには ちと過労働でもあったらしい。
出窓のようになってた窓の縁へ腰掛け、暖かい陽気を浴びてる内に、
ついついウトウト、居眠りしちゃったらしいのが、
金のくせっ毛を淡くけぶらせ、何とも愛らしい構図になっており。

 「………。」

ふかふかな毛並みのシェルティを抱え込んでのうたた寝は、
平素の子悪魔っぷりを微塵も感じさせない、
何とも愛らしいお顔のそれであり。
それを眺める葉柱に気づいたか、
こちらを見上げたシェルティさんも、
吠えもしなけりゃ尻尾も振らず。
つぶらなお目々で見上げて来るばかりな彼だったのは、
剥がしてと哀願してというよりも、
声掛けちゃダメだよと言ってるように見えもして。

 「まあ、今日は急ぎの講義もないしなぁ。」

母上が坊やへ叩き起こせなんて言ったのも、
ここへと上がり込む許可を、
他でもない彼女が坊やへ与えましたよという意思表示。
別に出入りさせないつもりでいた訳じゃあないのにな。
隙をついての 先を越されたような、
いやいや、何かしら見透かされたような、
そんな複雑な気分を苦笑と共に抱えたまんま、

 “いつもこういうお顔でいりゃあいいのによ。”

今はすっかりと天使にしか見えない
無垢な寝顔を見下ろしているばかりだった、
葉柱さんだったそうでございます。






   〜どさくさ・どとはらい〜  12.02.26.  


  *春といや、心機一転、独立したりもする人も多かろと思いまして、
   葉柱さんが個人的に使うマンションを
   入手なさった経緯というか、
   三回生くらいの設定だとこうなるという段を書いてみました。
   (10年後篇でとっくに書いてたのとは別Ver.ということで。)

   妖一くんは六年生ですね。いや、この春には中坊ってことになるのかな?
   シェルティのキングちゃんも、一応はパパになってるんですが、
   お茶目さはそうそう変わらないようで、
   妖一坊っちゃんと一緒なら、こういう悪戯も元気よく!
(おいおい)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-g.gif**

戻る